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R&Dについて少し調べ物

R&D、つまりResearch and Developmentは研究開発と訳され、研究並びに技術開発とも言われる。これは主に企業や政府が、先端研究への投資を通じて新商品・新サービスの開発を促し、結果的に経済発展をもたらすための一つの手段である。

R&Dの重要性は産業革命初期にはすでに認識されていた。つまり、手工業の台頭する18世紀初めに遡ることができる。単なる遠隔地交易が資本主義の誕生にとって十分な条件下どうかは、アダム・スミスマックス・ヴェーバーの間でも意見が分かれるところだろう。しかし少なくとも遠隔地交易が利鞘の問題以上に、知識や技術を土台に据えた交易の形を作り上げたのは確かだろう。その必要は地中海一円をベースにした経済活動だけでは見えてこなかっただろう。東インド西インド、アジア、そういった遥か彼方にガレオンが無事に到達し、現地に拠点を構え、商取引や交渉を可能にし、といった一連の過程が世界規模での知的ネットワークを新たに編成し、賦活させたかは、邦語では、例えばカピル・ラジや新居洋子の著作に詳しい。

とはいえ手工業が問題なのである。なぜならErik S. Reinertが指摘するように、技術開発、収穫逓増、相乗効果を実現することが結局のところ経済発展には必要である。産業革命がアレンが指摘したような賃金高など様々な原因の果て、技術開発に成功した国(つまりブリテンイングランドに比べスコットランドがインテリを多く産出していたにもかかわらずロンドンで職を得ていた事実を見落とすべきではない)が急速に経済発展を遂げたというのは揺るがしようのない歴史の事実である。同時代にあって、アメリカもイギリスによって禁じられていた手工業化と保護貿易を実現したことで急速に経済発展した。

問題はバベッジが指摘したように、グローバル化(あるいはより狭くとって自由貿易の推進)の先にハイスキルな仕事を独占して、機械化可能な産業のみが他の国々に残されてしまうリスクである。そして貧乏に陥っていく国々は技術的改良とは無縁の仕事に特化していくことで貧しいままになる。

国家はこうした時、長期的な技術開発への投資を促すような制度や率先した投資を行っていいかもしれない。

1992年、冷戦終結直後。この年の内閣府が発行していた『世界経済白書』を見ると以下のようにグラフを添えて先進国諸国の経済成長の停滞が強調されていた。景気後退はゆっくりと続き、回復へなかなか向かわないというわけだ。

1980年代後半に順調な拡大を続けてきた先進国経済は,89年以降成長のスピードをゆるめ,91年には第2次オイル・ショック後の82年以来の低い伸びとなった。

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出典:内閣府『世界経済白書』https://www5.cao.go.jp/keizai3/sekaikeizaiwp/wp-we92/wp-we92-00201.html#sb2.1.1.1

ここで注目すべきは、この景気後退及び回復の遅れの原因が次のように指摘されている点である。

今回の景気停滞局面の特徴として言えることは,総じてどの国でも個人消費が低迷している他,特に欧州では設備投資の落ち込みが比較的大きいということである。

このような状況を打開できない理由として、さらに次のように総括されている。

一つは,特にアメリカ,イギリスにおける企業,個人両部門にわたる債務の増加である。83年から88年にかけての景気拡大は,この間の金融革新ともあいまって企業,個人に対して債務残高の高まりをもたらした。このため,現在では悪化したバランスシートを改善するために,企業部門,家計部門ともに債務の削減に積極的な動きをみせている。しかし,こうしたバランスシート調整の過程では,投資や消費に資金は回らず,景気回復力を極めて弱いものとしている。また,金融部門においても,資産内容の悪化により銀行の貸出態度が慎重化するなど金融伸介機能が低下しており,アメリカ等では金融緩和の景気刺激効果が弱まっている。
二つめは,各国の財政赤字が巨額に達していることである。アメリカでは,巨額の財政赤字の削滅が一向に進まないことから,数次にわたる政策金利の引下げにもかかわらず,長期金利は高どまりし,投資の回復を妨げている。また,欧州においても,EC通貨統合を前にして,イタリア等の巨額の財政赤字を抱える国では財政赤字の削減を余儀無くされている。こうした財政赤字の大幅な削減は中・長期的には供給力の改善に資するものの,短期的にはデフレ的な影響を被ることは避けられない。
三つめは,ドイツ統一コストの増大による欧州諸国の金利の高どまりである。ドイツでは,90年の統一以降,東独地域へ向けてGNPの4%にも達する資金移転を行っているが,東独地域の復興は予想よりも遅れており,ドイツの財政再建の足かせとなることが懸念される。こうしたドイツの統一コストは,欧州通貨危機の背景の一つとなるとともに,金利の高どまりを通して欧州経済にマイナスの影響を及ぼしている。
四つめは,企業が国際競争力の向上を重視し,大幅な合理化を行っていることである。こうした企業のリストラクチャリングは,人員削減を伴うことによって労働需要を極めて弱いものとしている。また,欧州においては,産業構造が大きく転換する中で構造的な失業が増大しており,需給のミスマッチもみられている。このため,先進国では総じて雇用問題が重要な課題の一つとなっている。

なお、この時アメリカがユーロ導入にどういう役割をは確かなどを考えると面白い気もするのだが、とりあえずはわからないことが多いので置いておく。というのも、ここで簡単にいえば景気回復のためには大規模な財政支出が難しいなか、金融緩和を進めるしかないかもしれないということが言われているわけだが、アメリカはその後ユーロ導入をドイツとの間で推進することで、この状況を高いするのに都合のいい貿易収支の構造の変化と資本還流を実現したのではないだろうか。

それはともかく、以下のページに見られるアメリカ経済の分析もとても興味深い。

www5.cao.go.jp

ここで僅かにR&Dについても触れられている。とはいえ全体に自由貿易、世界市場の構造変化や、そこで貿易収支をどうするか、それに応じて金融緩和をどうするかといった問題が中心に論じれている。

ところが翌年平成5年の『世界経済白書』ではR&Dについて大きく紙幅を割いて論じている。もうWindows95が登場する2年前である。

上でも述べたように世界貿易は世界経済の成長のエンジンとして拡大してきたが,その内訳をみると工業製品とりわけ,近年ではいわゆるハイテク製品(医薬品,電子機器,通信機器,事務機器,航空機器)の伸びが高くそのウェイトが上昇している。先端技術産業分野の貿易の伸びがこのように高い背景としては,①先端技術産業における新製品め開発(プロダクト・イノベーション,例えばICやパーソナル・コンピューターの登場など)や生産工程の技術革新(プロセス・イノベーション)により,需要と供給が同時に拡大してきたこと,②後にみるような先端技術産業の多国籍企業化の進展により企業内貿易が拡大していることなどが挙げられる。

このような見解は急に現れたような印象がある。その時点でだいぶ遅れをとっていたんだなということが想像できる。確かに国家レベルで言えば、アメリカもまた軍事関連および医療関連への投資は比較的多く行なっていたとはいえ、先端技術への投資はそこまで積極的でなかったことは確かであり、この時点で日本もまたそこに国が投資する重要性を認識は容易にできなかっただろうとは思う。特にこの時点で以下のような数字上の事実も存在していたのだから。

次に,主要先進国の先端技術産業分野における競争力の変化をOECD13ヵ国の輸出に占めるシェアでみると,アメリカは最高の水準にあるものの70年から90年にかけてかなり低下し,ドイツ,イギリスはほぱ横ばいとなっている一方,日本は,そのシェアを急速に拡大し,90年にはアメリカに次ぐ高いシェアを占めるに至っている。

これが数字だけの問題だとは、しかし認識していたようだ。

しかし,こうした動きは,為替レートや内外の景気等によっても影響を受けるため,先端技術産業の比較優位の変化を必ずしも的確に表しているとはいえない。

重要なのはこの年の報告でも以下のページ以下

www5.cao.go.jp

ちょっともう疲れてきたので、簡単に重要と思われる箇所を一つ引用しておく。

研究開発等を通じた企業の活発な技術革新の追求が行われる中で,最初に新製品の開発等に成功した企業には創業者利潤としての超過利潤がもたらされるが,その超過利潤は永続するものではなく,また新たな創業者利潤を求めた技術革新の追求が繰り返されることになる。こうしたことは先端技術産業に特有の現象ではない。理論的には費用逓減産業では独占が発生し競争が消滅するはずであるが,実際に成長産業で競争がなくなり独占が現れた例は歴史的にもほとんどない。「戦略的貿易政策」においては,規模の経済性に基づく市場の寡占性により,先端技術産業では超過利潤が長期にわたり継続することを1つの根拠として政府が支援を行うべきと考えるが,先端技術産業においても市場が競争的である限り,超過利潤は短期的にはともかく長期的には大きくないといえよう。

 この見立てをどう思うだろうか。アップルやGoogleAmazonマイクロソフトFacebookなどの現在を知っている我々にとって。

結果次の節ではこう述べている。

結局,政府が先端分野において,今後発展するであろう事業や技術を的確に選択し,その研究開発を遂行することは,将来にわたる需要動向に関する情報や技術情報の不十分さ,商業的インセンティブの欠如,政治的介入の危険性等から大きな困難が伴うと考えられる。すなわち「政府の失敗」が発生する可能性が高い。逆に,そうした分野については企業は将来の利潤獲得のため研究開発を自ら行うインセンティブを有しており,政府の役割はリスク軽減等の条件整備を行うことで十分と考えられる。

 

www5.cao.go.jp

国がどのようなリスクを負うべきなのかは非常に難しい問題だろう。とは言え、このような失敗を重ねながら現在に至って、挙げ句の果てに学術会議問題が勃発、あるいはワクチン開発競争の遅れ、ここら辺は同じ動機に基づいているように思う。何がどうしてこうなったのか、一つヒントがある気もするが、まだまだわからないことばかりである。