春は来るのだろうか、問いかける声は広く稜線に響いていた。けれどもCOVID-19は大きな葉を落とした広がりが残されていることを理解するようざわめいて、ぴりぴり皮膚に嫌な痕を残していく。
その身を、無意識を、晒すな、そして動かしてはならないと花冷えの風は嘯く。けれども家族は寄り合い、恋人たちは手を結ぶ。そこに天使の抜け道が開いている。
冷たいまま、薄暗い昼を通り抜けていくと、そこに虚しく垂れる、空色の雲が淀んでいる、その下を、荒れた手で木の棒握って耕す奴たち。彼らがこの庭園を整えているのだ。
枝垂れ桜はまだ蕾を膨らませることすらままならず、染井吉野はホモジーニアスな、呪わしいほど透けた花弁を成している。躑躅やネモフィラが土気色の空間を幽かに彩る。
ジムナスティックは遠く囀る野鳥たちのレッスンに導かれ、池の周りをボールを追って走り去っていく子犬たちが全身から喜びを躍けさす。
いつまでも閉ざされているのだろうか、この先でモルグの悪臭が鼠や蝿を呼び寄せている。改修なんて隠蓑で、もうそこには、不可触の遺骸が山積みになっているのだと、密かに納得してしまう。